第78回研究会併設チュートリアル


〜情報システム開発におけるオブジェクト指向技術の再評価〜



 このチュートリアルではオブジェクト指向技術を取り上げました。多くの方々が
オブジェクト指向技術の導入を検討しておいでのことと思います。しかし、いざ実
行となると新しい方法でシステム開発を納期通りに、予定の工数で仕上げられるか
確信が持てず、ためらうことが多いでしょう。実際失敗例も幾つか耳に入ってきま
す。
 また、オブジェクト指向技術に関する書物が沢山あって、少しずつ違っています
ので、本格的あるいは正統的なオブジェクト指向技術とはどのようなものか定かで
ありません。そこで、今回はオブジェクト指向技術を実務に使用し、またSE、プ
ログラマを指導している依田智夫さんと加藤潤三さんに、手慣れた手法を紹介して
いただくことにしました。

 依田さんには「UMLの現状と限界」についてお話しいただきます。ご存じのよ
うに、UML(Unified Modeling Language)はオブジェクト指向技術に関する標
準設定を目指す世界的なコンソーシアム(企業連合)であるOMG(Object 
Management Group)が設定しているオブジェクト指向モデルの「表記法」です。オ
ブジェクト指向技術はまだ発展途上ですので、そのかか煮含まれる諸概念について
有識者たちが完全な合意に達しているとは限りません。UMLはオブジェクト指向
技術分野で有名なランボー、ヤコブセン、ブーチが中心になってまとめています。
しかし、それでもまだ未完成部分が多々残っています。そのことをわきまえてUM
Lをお使いいただきたいと思っています。UMLは現在世界標準の重要な候補で
す。これを理解し、補強することで日本のSE、プログラマーの皆さんの意思疎通
が容易になり、ソフトウェアの品質と生産性を同時に高めることができると考えま
す。
 依田さんはUMLに関する著書が幾つかお有りで、精力的に研究と実務に取り組
んでおいでです。たとえば依田さんが監訳された「実践UML(プレンティスホー
ル出版、1998)」に目を通してご参加下さい。

 加藤さんには「JSD概説」をお願いしました。オブジェクト指向技術の源流に
はC.A.R.Hoareの「抽象データ型」があります。これを理論化したHoareの著書「C
SPの理論」を読んでみますと、幾つか現在のUMLの表記法にない、重要な概念
が含まれています。マイケル・ジャクソン(歌手でなく、英国のSE)はHoareの考
え方に共鳴し、その考え方に沿って情報システムをモデル化し、開発する方法”J
SD(Jackson System Development)”を整備しました。オブジェクト指向技術
が単なるプログラミング技術ではなく、実世界の構造を捉え、それを情報技術に
よってシミュレーションする方法として体系化されています。表意法が単純ですの
で、意外に理解しやすい面があります。
 加藤さんは直接Jacksonの指導を受け、いまもソフトウェア王学に関して意見交
換を続けているとのことです。もちろん実務経験も豊富ですので、先進的なソフト
ウェア開発の現場の生の声を聞けると思います。

 UMLとJSDを並べてみることで、オブジェクト指向技術の本質は「表記法」
でなく「モデリングの視点」あるいは「構造の捉え方」にあることをご理解いただ
けると思います。良い情報システムとソフトウェアを構築されたい方々の参加をお
持ちします。