ISディジタル辞典-重要用語の基礎知識-第二版

序文

情報システムは,直接と間接とを問わず,ほとんどすべての人間活動に影響を与えている。何故ならば,情報システムは人間活動を取り巻く文化の変遷や社会環境の変化も含めた時空間において,広く深く関わっているからである。それ故,情報システムには,単なる情報技術や電子・通信技術だけでなく,あらゆる学問分野の知識や,実業界の人々によって長年蓄えられてきたさまざまな知恵が複雑に絡み合って蓄積されていると考えるのが自然であろう。

しかしながら現実には,少し専門が違うだけで用いる言葉が違っていたり,同じ表現でも言葉の意味が違っていたりする場面が少なくない。話が通じていないと感じる場合には質問することができるが,思いの行き違いが生じているにも関わらず話が通じていると思い込んでいる場合には関係者間での思いのギャップがますます広がるという現状が続いてきた。そして,情報システムに関わる人々の間で,用語の意味解釈に関する問題意識が高まり,情報産業人材の育成プロジェクトでも,必ずといってよいほど話題にあがるようになった。今日では,情報システム分野で活動する人々にとって,専門用語に関する知識共有のしくみが不可欠になっているといえよう。

これまでも,情報システムハンドブック(培風館,1989),情報処理ハンドブック(情報処理学会編,オーム社,1995),Encyclopedia of Information Systems(Elsevier Science, USA, 2003)など,情報システムに関するハンドブックや事典類などが出版されている。その一方では,技術や社会の進化に速やかに対応できる用語辞書の必要性が議論され始めた。ちょうどその頃,情報処理学会による次世代情報処理ハンドブック構想が生まれ,それが今回の“ISディジタル辞典-重要用語の基礎知識-”を発刊する直接のきっかけとなった。

ISディジタル辞典は,名称のとおりディジタル形態であることからキーワード検索は容易であるが,一方では,情報システムの学問的な分野としての位置づけも重視しようということになり,構成上,3つの章だてが組まれた。1章では,情報システムの基礎として“情報システム分野における概念的な基礎,情報と情報システム技術と社会環境に関する基礎的な知識,情報システム開発に関する一般理論,情報システムにおける価値の変遷,情報システム学と教育・人材育成に関わる諸問題,一般システム理論”などを幅広く扱っている。2章では,情報システムの開発・保守・運用として,あるべき仕事の構想から,問題把握,解決法,モデリング,設計,実装,テスト,保守,運用,評価までのアクションとそれらを支援する理論及び技法を扱っている。そして,3章では,業種対応の情報システム化動向に注目して,官公庁・公共,金融・保険,製造・建設,商業・流通,生活・サービスなどにおけるシステムの特徴を取り上げている。

初版に集録された項目は300件を越えている。これらの取りまとめや執筆には60名余りが参加したが,その後ろにはたくさんの関係者がいて,さまざまな協力や助言を得ることができた。今後は執筆者も更に広げて,定期的に項目の増補や内容更新を実施していく予定である。

ISディジタル辞典の企画は2011年春にスタートし,夏には「情報システムと社会環境研究会」のメンバーによる編集委員会が次のように編成された。

編集委員会

編集幹事
阿部昭博
編集委員(五十音順)
神沼靖子,児玉公信,辻秀一,松永賢次
システム構築委員
柿崎淑郎

編集委員会の活動開始と同時に執筆者名簿が作成され,さらに項目ごとに執筆者を明記することとなって,以後速やかに執筆・編集・校正などの作業が実施され,このたびの公開に至った。

本プロジェクトにおいて,情報処理学会及び,次世代情報処理ハンドブック編纂委員会からは多大なご協力をいただいた。ここに感謝の意を表す。また,執筆・編集・校正などに関わられたすべての関係者に深く感謝する。

なお,ISディジタル辞典の今後の発展と充実に向けて,更に多くのユーザのご協力が得られることを期待したい。

ISディジタル辞典が,多くの研究者や利用者の活動の一助となれば望外の幸せである。


2012年4月

編集委員一同

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